皆さんは体幹や骨盤の機能を高めようと、座位での側方リーチ動作の練習を行ったことはありませんか?その時、良かれと思って反対側の骨盤を挙上させながら、リーチ動作を行わせた経験はありませんか?

実はこれ、あまり効果的ではありません。

実際に行った経験のある方は、リーチ動作の前後を比較して「あまり変わらないな…」と思ったのではないでしょうか。

鈴木俊明先生の書籍『体幹と骨盤の評価と運動療法 改訂版』では、リーチ動作において重要なのは「同側の股関節内旋」と記されています。股関節が内旋することで、同側の骨盤が下制し体幹が側屈します。そして、この側屈を止めるために腰椎が対側に側屈し、結果として反対側の骨盤が挙上するのです。

つまり、リーチ動作において体幹や骨盤の機能を高めようとするのであれば、反対側の骨盤挙上を誘導するのではなく、座位での股関節内旋が生じる可動性と主動作筋である中殿筋前方線維や大腿筋膜張筋の筋機能を高める誘導が必要なのです。

このことが理解出来ると、実は座位でのリーチ動作(以下、側方体重移動)練習で歩行や症状に変化を与えることが可能になります。今回は私の身体を例に挙げながら、この内容について深掘りしていきたいと思います。

実際の症例でイメージしよう!

身体機能を考えるうえで、体幹や骨盤の機能を高めておくことが重要なのは周知の通りです。私は疲れてくると、よく右の股関節前面や大転子付近に違和感や痛みが生じてきます。

痛みが出現する前段階の「違和感」を感じた時、私はいつもセルフケアとして座位での右側方体重移動を行っています。このエクササイズの意図とコツは後述しますが、私の場合、これを実施することでその場で症状が改善します。その意味が分かると臨床の視点が変わると思いますので「ゆっくり」と読み進めてください。

評価のポイント

ポイント①
右股関節内旋機能低下

私は歩行では左に比べて右のつま先が外を向くほど、右股関節の外旋が強い特徴があります。そして症状のある右脚で片脚立位を行うと、自然と骨盤が左へ回旋します。こうした骨盤と股関節の特徴は、私に限らず臨床の場面でもよく遭遇します。

ポイント②
片脚立位と座位側方移動の共通点

実は「片脚立位における骨盤回旋」と「座位での側方体重移動」は、同じ運動であると言えます。例えば、右片脚立位にて骨盤が右回旋すると右股関節は内旋し、座位での右側方体重移動に伴う右股関節内旋と同じ運動になります。

健常者における歩行時立脚終期の注目ポイント

上記のポイントを踏まえた上で、先述のセルフケアについてもう一度考えてみましょう。

普段から右股関節が外旋位であり、右片脚立位では骨盤が左へ回旋するのですから、股関節はさらに外旋位になります。

股関節内旋の可動域をみると右に制限を認め、大腿筋膜張筋の評価としてOberテスト変法を行うと右に制限を認めます。私はこの結果を、右股関節内旋筋の機能低下と考え、機能を改善させるために先ほどのセルフケアを行っています。それでは、ここから実際のエクササイズのコツについて説明していきます。

徴候①
右股関節内旋に可動域制限あり

徴候②
右Oberテスト変法陽性

右の中殿筋と大腿筋膜張筋を促通させる座位運動

POINT①
筋収縮を感じながら骨盤下制を保持させる

右の中殿筋と大腿筋膜張筋の求心的活動を引き出すために、骨盤水平位を開始姿勢として自動運動で骨盤を右下制に保持させます(股関節は相対的に内旋位となっています)。この時、右股関節内旋筋である中殿筋前方線維や大腿筋膜張筋の収縮を手で感じながら行ってください。

POINT②
左坐骨を座面から離しすぎない

また、反対の左臀部が完全に浮くぐらい骨盤の右下制をしてしまうと、中殿筋と大殿筋上部線維の求心的活動が低下してしまいます(『体幹と骨盤の評価と運動療法 改訂版』のp142で理由を解説しています)。そのため、左坐骨が座面から離れない範囲で側方体重移動を行うことが重要です。

POINT③
骨盤の前傾と体幹の立ち直りを引き出す

ポイントは、骨盤を右下制位で保持する間、骨盤の前傾を引き出すように誘導してください。 股関節と骨盤の保持ができるようになったら、体幹の立ち直りを引き出してください。

中殿筋前部線維と大腿筋膜張筋を促通させる座位運動

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参考図書

骨盤と体幹の評価と運動療法 改訂版

監修:鈴木 俊明

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