先月発売されたばかりの書籍、「スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション 改訂第3版」では“腱板断裂の症例における最大の目標は、骨頭求心位の乱れによる肩関節運動の機能破綻の改善である”と記載されています
この機能破綻には当然、肩甲上腕関節の拘縮や肩甲帯機能の低下も大きく影響します。そのため、腱板断裂に対する術後のリハビリテーションでは、手術療法によって縫合した腱板の機能を再獲得すると同時に、骨頭求心位を保持できる肩関節機能の再獲得を図ることが重要です。
この考えを念頭に置いてリハビリテーションを行えれば、個々の症例の目標や治療の考え方が自ずと決まってくると思いませんか?
以上を踏まえ、今回は腱板断裂に対する術後のリハビリテーションの考え方と実際について紹介して参ります。
腱板の機能
腱板筋の機能的な役割には、手動作筋としての役割と肩甲上腕関節の安定化機構としての役割があります。特に、腱板は骨頭求心位を保持するための肩甲上腕関節の静的および動的な安定化機構を担います。動的な安定化機構はADL獲得のためにも重要な要素であり、動的な安定化機構には関節包などの静的な安定化機構の役割に加えて、腱板筋の作用が重要となります。 これには円滑な肩関節運動を行うために各腱板筋が協調して働く「depressor機能」や「force couple」などの機能的役割があります(図1)。
しかし腱板完全断裂では、関節包構造が破綻しているため、上腕骨頭の求心性作用が低下し、断裂腱板の方向へ骨頭が偏位しやすくなってしまいます(図2)。
以上のように、腱板は骨頭求心位を保つ需要な機能の1つであることから、腱板が断裂すると上腕骨頭が上方に偏位するなどの骨頭求心位の乱れが生じることになります。
骨頭求心位を保持する腱板以外の要素
前述の通り、骨頭求心位を保持するためには腱板の役割が不可欠です。しかし、骨頭求心位を保持するためには腱板以外にも重要な機能が2つあります。1つは肩甲帯機能であり、もう1つは上腕二頭筋長頭腱の機能です。
骨頭求心位保持に必要な肩甲帯機能について
肩甲帯機能については、運動開始初期の肩甲骨の機能が重要になります。通常、肩甲骨は肩関節の挙上運動に伴い上方回旋運動を行います。しかし、運動開始時には肩甲骨が逆の下方回旋運動を行い、肩甲骨関節窩が上腕骨の方向へ向かう動きが観察されます(図3)。
しかし、多くの腱板断裂の症例では、肩甲骨周囲筋の弱化などの肩甲帯の機能不全が生じている場合が多いです。そのため、肩甲上腕関節に関節拘縮による可動域制限がない場合でも、肩関節の挙上運動開始初期に肩甲骨は代償的に挙上・上方回旋を呈しやすくなります(図4)。
このような状態では、運動初期に肩甲上腕関節の安定が得られないため、骨頭求心位を保持する事が困難となる。つまり、骨頭求心位を保持するためには、運動開始初期に上腕骨頭の方向に肩甲骨が動くことができる肩甲帯機能が必要であると言うことができます。
骨頭求心位保持に必要な肩甲帯機能について
上腕二頭筋長頭腱の機能解剖を理解する必要があります。上腕二頭筋長頭腱は肩甲骨上結節から起始し、肩甲上腕関節内で上腕骨頭の上方を走行し、結節間溝に向かう。また、関節内では肩甲下筋の舌部の上方を通過する。このような解剖学的な理由により上腕二頭筋長頭腱は、腱板筋と同様に、上腕骨頭の上方への偏位を制動するdepressorとしての役割を担うと考えられています(図5)。
実際に腱板断裂の症例には、上腕二頭筋長頭腱の扁平化や肥厚などの変性や上腕二頭筋長頭腱の断裂を有している場合も多く見られます。特に肩甲下筋断裂を有している症例で、その傾向が強いことが報告されています。
以上2つの骨頭求心位を保持するための機能の維持・改善は、術後の縫合腱板への過剰な負担を減らすためにも重要となります。特に、肩甲帯の機能不全は腱板断裂でほぼ必発することから術前からの介入も重要となります。
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