TKA術後のリハビリテーションでは、医師から関節可動域改善を依頼されることが多いと思います。退院までに膝関節屈曲可動域120°、伸展0°を目的に進めていく施設が多いと思います。
私が新人の頃はTKA術後早期にROMex.を行うと、患者がすごく痛がったり、緊張が抜けない患者が多く、「疼痛を感じやすい患者を担当することが多い自分は運が悪いな」と自分の技術不足を棚にあげていました。
しかし、ある日、同じ患者のリハビリテーションを、ある先輩セラピストにお願いした所、あんなに私が苦労したROMex.をスムーズに行うだけではなく、可動域がみるみるうちに改善していったのです!
この先輩のように『この人が担当すると経過が良くなるという人』は、あなたの身近にもいるのではないでしょうか?実はそのような優れたセラピストには、共通したポイントがあるのです。
今回はTKA術後のリハビリテーションを例にして、膝関節屈曲可動域制限について解説していきます!
TKA術後の膝関節屈曲可動域制限について深堀り解説!
硬さの原因になりやすい組織は?
TKA 術後では、膝関節の可動域制限が必発します。TKAでは特に前内側の侵襲範囲が広いため、屈曲可動域が制限されやすいです。しかし手術適応の膝OA患者の大半は、術前から伸展制限を有しているため、術後も伸展制限を伴うことが多いです(図1)。
術後早期では関節の腫脹が強く、特に屈曲運動時に関節内圧が上昇しやすいです。また、内圧上昇に加え、術創部に離開するストレスが加わることで、強い疼痛を伴い屈曲は制限されます。腫脹が治まると内圧は下がりますが、前述した術侵襲による軟部組織への影響で可動域が制限されやすくなります。この制限因子としては、前方では術創部や内側広筋、膝蓋支帯が多く、後方ではサギングの影響によって後方組織に挟み込みが生じ膝窩の脂肪体や靭帯などが制限因子となります。
可動域ex.のポイントは?
術後早期で疼痛が強い場合、自動運動よりも他動運動で行う方が筋緊張を緩和させやすいことがあります。特に大腿前面の筋は膝関節屈曲運動時に伸張されるため、背臥位で膝関節のみを曲げるよりも、一度股関節を屈曲位にしてから膝関節を徐々に曲げていく方が疼痛は少ないです。また、セラピストが関節を操作するときには近位に対して遠位を動かす方が誘導しやすいため、大腿骨よりも脛骨が操作しやすいこの肢位で、脛骨をやや前方に誘導するように動かすことで大腿骨のRollback を促すことが可能となり、後方組織の挟み込みを防ぐこともできます(図2)。
術後2週前後からの創部へのアプローチ
術後初期では膝全体の痛みや炎症症状による制限がありますが、この時期以降は制限因子となるものが限局されてきます。屈曲方向の可動域ex. を進めていく中で制限因子となりやすいのは膝関節前面に多く、特に術創部と前内側部に痛みや伸張感が集中します。
術創部は約10~15㎝程度の大きさがあり、その深層にも様々な組織が存在しています。皮膚は皮下組織と滑走することで、膝関節の関節運動をスムースに行うことが可能となります。しかし、TKA のような大きな皮切が加わることで、瘢痕化する過程で皮下組織と滑走障害を呈することが多いです。このため抜糸が行われる術後2週前後から創部周囲に対してモビライゼーションを行う必要があります(図3)。
出血や創部の離開に最も注意する必要があるため、必ず滲出液がなく、創部の状態を実習指導者に確認してから、術創へシワを寄せる方向へ動かしていく治療を行います。
皮膚の深層組織へのアプローチ
皮膚の深層には膝蓋骨より遠位側では膝蓋下脂肪体、近位側では膝蓋上脂肪体や膝蓋上嚢、大腿骨前脂肪体などの軟部組織が存在します。特に屈曲時には膝蓋骨より近位側に制限を訴えることが多く、この場合膝蓋上嚢の滑走ex.やリフトアップ操作、ダイレクトにモビライゼーションを行います(図4)
今回の内容は書籍「臨床実習生および若手PTのための理学療法実践ナビ 運動器疾患編」を参考に文章を作成しております。さらに深く病態を理解し、より具体的な理学療法を学びたい方、臨床実習生を指導する立場でより的確に指導をしたい方、臨床実習で多くの経験を積みたい方は是非、本書を手に取ってください。TKAを含めた運動器疾患のポイントはもちろん、実習生にとってはレポートの作成のポイント、指導者にとっては指導のポイントも解説され、大変分かりやすくなっております。
あなたの臨床がたくさんの方の笑顔につながりますように。
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